「例えば、ねぇ ホウ統。」 「…?」
私と貴方だけの世界に、この星にたった二人だけが居る世界になったら、如何思いますか?
「…そりゃまた、珍しい質問だね。」 「そうですか?」 「お前さん、そういった理想論みたいなのは口に出さないじゃないか。」
何時もその端整なお前さんからは、厳しくも現実的に見て正論のみを口にする。 そんな、諸葛亮から、まさか希望的願望を語られるとは思いもしなかった。 少なからず、驚きを見せているホウ統に当の本人は、目元を細めてただホウ統を見ている。
「如何思うって…そりゃ、まずは誰かを探すだろうねぇ…。」 「誰も居ないと判っていても?」 「そうしなきゃ、居ても立ってもいれないじゃないか。その後は…」 「ホウ統。」
言葉を切るように、諸葛亮はホウ統より先に声を上げる。
「…?」 「質問を変えます。私が明日、死ぬと判っていたとします。」 「……」 「貴方は、私の願いを聞いてくれますか?」
何を、言っているのだろうか と言った顔をするホウ統。 いきなり、世界に二人だけになるやら明日死ぬやら言い出す軍師が目の前に居るのだから、当然と言ったら当然だ。 それでも、諸葛亮の顔はふざけている様子は無い。 真意は見えないが、何かしら答を求めているのは感じ取れる。
「…あっしは、お前さんの願いを今まで一切聞いてこなかったかのような言い方をするねぇ…?」 「…そうですか?」
はぁ、と溜息を一つついて、ホウ統は諸葛亮に向き直る。
「最期の願い、なんだろう?もちろん、聞くさ。」
他でもない、お前さんの願いなんだから…
「…例えば、貴方に女装してもらいたいとか、口付けしてもらいたいとか…」 「…」 「―――抱かせて欲しいとか、私を、殺して欲しいとか…でも?」 「…」
今度こそ、何を言いたいのか判らない。 諸葛亮の表情がよく見えない…
「何、言って…。」 「ホウ統。私は貪欲な人間なんです。貴方を失うのが怖い。自分が消えて無くなるのが怖い。目の前にある倖せが、崩れていくのを見たくない。…とても、とても弱い人間なんです。」 「…お前さん…」
何か言おうとしているホウ統を他所に、諸葛亮はホウ統を抱きしめた。
「如何すれば良いのでしょうか…何をすれば良いのでしょうか…恐怖で身体が動かないんです。」
抱きしめる力が強くなる。 ホウ統の顔が、息苦しさに歪む。
「目を閉じたら、貴方が居ない気がして。声を掛けても、誰も居ない気がして。逃げたくても逃げれない恐怖が身体に纏わりつくんです…。」 「しょ、かつ…りょ…?」 「お願いですから、居なくならないで。私の前から消えるならば、私の記憶も殺していって下さい…。」
何が、諸葛亮をそう、駆り立たせるのかは理解出来ないが、今の諸葛亮は正常じゃない。 こんな、切羽詰ってる諸葛亮、初めてかもしれない…
「…あっしの答は、お前さんが望んでいることを、してみるよ。抱きたいのなら抱けばいい。殺して欲しいのなら出来る限りのことをしてみるさ。」 「…」 「ただね。あっしは、お前さんのことを忘れたくないよ。お前さんから消えたくも無い。淋しいじゃないか…哀しいじゃ、ないか…」 「…ホウ統…」
重く黒いものが晴れて、心が軽くなった気がした。 温かいものが広がる心落ち着く感じがする。 そっと、ホウ統を抱く腕を緩めると、少し赤くなって俯いていた。 諸葛亮の顔が、ゆっくりと笑顔になった。
遠い記憶が霞んでよみがえる… 心温まった言葉が。あの表情が。 お願い神様。どうか私に時間を下さい。 大切なあの人に、一言でいいのです。 忘れないから。 私は貴方を、絶対に忘れないから… お願いだから、どうか哀しい表情をしないで。 ―――お願いだから、どうか笑って見せて…
強い風が、一気に天へと舞った
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暗くてすみません。
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