何の為に生まれてきたのか 何の為に生きてゆくのか 造られた生命 模造された能力 総て、総てが自分ではない「誰か」 自分が居ないこの躯は、一体「誰が」宿っているのか 自分は何処に居る? 自分は一体何だ?
自分は…私は…
「…ぅ、ツゥーッ!?」
暗い自問する世界から、泡沫の声がする あぁ、この声は…私の大切な
「…ミュウ…」
「ツー!?良かった、起きた…っ!」
先程までの闇を引き摺っているかのように重い瞼を開ければ、其処には愛おしい顔が涙を浮かべて視界に広がる あぁ、泣かせてしまったのか
「どうした?具合でも悪いのか?」
「違…っ、だって、苦しそうで、助けたいのに何も出来なくて…」
「…私は、平気だ」
まるで己自身に言い聞かせるかの様に言葉を吐いた 私とは違う華奢な躯が震え、大きな瞳には澄み切った雫が溢れ零れてゆく 儚いその姿に、私は強く抱きしめた 壊さないように、しかし、出来るなら壊してしまいたい程に この腕の中で、愛しい者の中で、朽ちる事が出来るのなら もし君が、私と同じ想いならば、共に堕ちていくのも構わない
「っツー?ど、どうしたの?苦しい、よ…」
「………」
もっと もっと欲しい もっと名を呼んで欲しい 喩えそれが紛い物の名前でも、君に呼ばれればそれが総て その声に、肌に、髪に、瞳に、総てに私が触れていたい ここまで欲深い者だとは、我ながら厭きれてしまう だが、これが私 造られた総てに措いて、唯一の「誰か」ではない「自分」
初めは君が憎かった 君のレプリカとして造られ、意思もなく殺戮を強制された 己の手が紅に染まっていくのも厭わず、ただ命令に従って生きていた 自由を取り返しあの場所で君に逢い、私は表現出来ない何かが沸き上がった 君は無防備に、あろうことか私に微笑みかけて 私は君に、噛みつくような口付けをした 元より体格差があるのを良い事に、逃げられないよう腕を絡めて壁に追い詰めた 傍から見れば、可笑しな光景であっただろう 本物と偽者が、弄り合っているのだから しかし抑え切れなかった 今までの怒りや苦しみ、葛藤を総てぶつけて、本物を超え支配したかった
長い、その乱暴な口付けを止めて本物の表情を見ると まるで聖母の様な、優しい笑みを浮かべていた 咥内を荒らされ、唾液を流し込まされ、呼吸を奪われたというのに ミュウは、私を受け入れてくれ 私は初めて涙を流した
あれから私とミュウは共に暮らすようになった 暮らす、と言っても定着せず世界を回って旅をしている 己の存在意義を見出す為 そして、ミュウと共に生きる事を許されるか、確かめる為
「…ツー?」
「ミュウ…」
「ん?」
「壊したい」
「……へ?」
「私とミュウを遮る何もかも。壊して一つになりたい」
「…え、っと…それは、どういう…?」
ミュウが問うや否や私は深く口付ける 一寸の表情も逃したくないから、眼を開けたまま 細い肩が大袈裟に揺れ、一気に顔が赤くなってゆく 奥で小さく縮こまっている舌を掻き出し、自分の咥内へと招き入れる 甘く舌先に噛み付くと小さく可愛らしい声を上げた 歯列をなぞり上顎を舐めると、ミュウの舌が押し退けてきた その可愛らしい抵抗を抑え首筋へと唇を滑らす 何処と無く甘い香りが掠め、それはまるで媚香の様だ 造りは同じはずなのに、感触も体型も何もかもが違う どうして、こんなにも、胸を焦がす? 焦燥と欲求、満たされない想い 二人で一つになれたら、こんな苦しみを味わずに済むのだろうか
「ん、ふぅ…ぁふ…ッ!」
「…ミュウ…ミュ、ウ…」
「っツー、心配しないで。ボクはずっと、傍に居るよ」
「…そんな根拠の無い約束は要らない。私は、証が欲しい…」
「…証?」
唾液を口端から零しながら荒い息を繰り返すミュウ 仄かに染まり始めているその欲に、私は心が躍る この想いは他の誰でもない、私の感情 私が、ミュウを求めている証 二人で一つになりたいと願う狂おしさ だけど私はミュウになれない ミュウが居なければ、この世界など如何でも良い ミュウが生きていてこそ、私の世界は光に満ちている 想いの矛盾が、私を狂わせる
「ミュウ。私から逃げてくれ。私に捕まらないでくれ」
「ツー…?」
「私に捕まったら、ミュウは壊れるだろう。いや、壊してしまう…」
「……」
「大切、なんだ。だから、私を…」
「淋しい、よね。一人は、悲しい、よね。ボク、ツーを一人にさせないから」
私タチハ 二人デ 一ツ ダカラ
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