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「アンタが毛利元就、か…」
白髪の大柄な男が、緑を纏った細身の男に言葉を掛ける
誰も居ない空間 静寂な夜 佇む三日月 騒めくものは鬼の心
「…長曾我部、殿。宴には、興が削がれましたか?」
至って丁寧な言葉口調の裏側には、眉間に皺を寄せている元就の本心
「そう歪ませんなよ。美人が泣くぜ?」
縁側で一人、爽やかな夜風の流れを受けていた元就の隣に元親が座る
手には一升瓶を持っていた
元就は只其れを横目で見ていた
「同盟を組めた記念すべき日だ。一杯交わそうぜ?」
元親の、男らしい手が元就の細い手首を掴み、杯を渡す
普通、初対面の其の夜に、こういった行動をとる者は先ず居ない…
そう、面識は本より随分昔からある二人なのだ
元親が忍んで元就に会い来ていたのは、未だ覚えているあの日の事
元親が始めて四国に訪れた時、海の見える丘で一人佇む男に、所謂一目惚れしたことが事の発端
其の者が、あの毛利元就と判ったのは同盟を組む話が持ち上がった時だった
初めは驚いたが、其れでも以前と変わらず元就に会いに来ている
気持ちは、少しも変わっていないのだ…
「貴様は如何してそう、無礼講なのだ…」
心底嫌そうな顔をして、元親へ皮肉を云うが…当の本人はというと、元就の隣に居るという事が何よりの倖せらしく破顔しっぱなしだ
「俺は包み隠さずなんだよ」
肩を抱き、額に口付けた
…最近、元親が犬に見えるのは気のせいか
きっと、そろそろ此の身を喰わんとしているのだろうな…元就はそう思った
今まで最後まで求められた事は無かったが、何度も際どい所まで口付けられた事はある
其れは着実に、元就の心を蝕んでいた
「…貴様は、我を閏へと入れ込もうと、考えているのか…?」
真剣な眼差しで、しかしやはり恐怖を覚えながらも尋ねた
元親はというと、一瞬ぽかん、とした表情で、次には笑っていた
「まぁ、抱きたいとは思っているよ。男だし、愛しい女(元就)が目の前に居るんだぜ?」
元就は身を引きたくなった 此処で求められたら、やはり応えたほうが良いのか…?
「…でもよ、」
元親の言葉の続きに、元就は顔を上げる
「オレは陵辱のような真似はしたくない。傷つけたくはねぇんだ…好きなヤツに鬼の一面を見せるワケにはいかねぇだろ?」
其の顔は本物だった
本当にそう思ってくれているのだろう…だが、身が疼いているのはお互い様、だ
「ふ…鬼の一面で抱かれるのも、また一興、よ…」
絡み合った視線が交ざるのは時間の問題
さぁ、今宵を楽しもうぞ…
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