どうして 私から何もかも奪っていくの?
あの事故で私の存在は消された。
私はそんなこと望んだわけじゃない。望んだことすら一度も無いわ。
私には拳法を習っていた、元気で優しい・・・大切な人だっていた。倖せだった。
それなのに、無惨にも倖せを壊して私を消したのは・・・世界の違う、憧れのひとだった。
ドゥラガン・C・ミカド。このミカドグル―プの若き総帥であり、私をこの身にさせた指導者。
実験に成功した者として、ドゥラガンの直属の部下として、今、私はここに居る。殆ど仕事が与えられず、ただ彼の傍にいるだけ・・・
私は一体何のために生かされて、何のために生きているのか判らなくなる。
一人で使うには大きすぎ、それに比例する大きなガラス張りの窓から、街のネオンの光と高々と昇っている月の輝きで、灯りを点けなくても見渡せる…そんな部屋を与えられた。
ベットに腰を下ろせば、微かに彼の香りがした。
・・・私と彼は、そういう関係を持っている・・・
バイオノイドでも生身の人間を使った事で、常人並みの感度を持っている以上、彼を楽しませることが出来る。
私は今までそういう存在で生きてきたわ。そして、きっとこれからも・・・
「んっ・・・や、ドゥラ、ガ…ッ」
抵抗してみたけれど敵うはずもなくて・・・。口内を蹂躙する彼の舌が、思考を奪う……それと同時に緊迫感が身体を襲う。
ここは資料室。幾らその中の個室だからといって、誰も入って来ないという保証はない。
こんな所を、誰かに見られたら……
「……余計な事を考えるな。私に応えられれば見逃してやる。」
資料棚に置いてあった両手が、後頭部と背中へと器用に回され、強く抱き締められた。
深くなる口付けと、彼の仄かに香るムスク系のコロンに酔う。
「んぅ……、ふっ、ふぁ………」
湿っぽい音が部屋中に響き渡っているようで・・・
どちらのものともいえない唾液が口内から溢れて、顎を伝って零れていく。最後に舌を甘噛みされて、彼はやっと顔を上げてくれた。
金色の髪が頬を掠る。
「はぁ・・、はっ、・・も、嫌。」
呼吸を落ち着かせながら、途切れ途切れに反論する。そうしないと、まるで歓んでいた様で・・・
「…見逃してやるのだ。少しは感謝されてもいいのではないか?」
深い、エメラルドグリ−ンの瞳が私を捕らえて放さない…
後頭部にあった手が、頬へと下りてくる。
「ドゥラガン。お願い、もう止めて。こんな所見られたら、貴方が迷惑でしょう?」
少しだけ強く、彼の胸板を押す。そんな様子に、彼は微かに笑った。
「…カルディア、お前は私に逆らえる立場か?」
「…っ!?」
背中にある手術の痕をなぞる感覚に、何故か力が奪われていく……
「やっ、止めて、ドゥラガン!」
「疼くのだろう?この傷跡が・・・。」
そういって首筋へと唇を滑らせていく。傷跡を愛撫するのを止める事無く……
膝がガタガタと震え、咄嗟に彼の腕にしがみ付いた。
「ふぅ・・、ふっ…ひ、ぁ…。」
「今の様に可愛くしていれば、苛めたりしないのだよ?」
クスクスと耳元で囁きながら、名残惜しそうに身体が離れていく。
甘い疼きが身体中を駆け巡っていて、自力で立っていることが出来ず、座り込んでいる私を見下す。
その視線に涙が出そうになった。
愛してもらいたいとは思っていないわ。
でも、これじゃあ私は何のために生きているの?
彼のため?こんな戯れをする相手ならば、彼には山ほどいるはず…
ただ、私が壊れていく様が見たいの?
――――コワレテホシイノ?―――――
ねぇ・・・私にはもう、貴方しかいないの・・・・・・
「カルディア。お前は私の所有物―モノ―
だ。決して手放したり逃したりはしない。私だけを感じていればいい。」
まるで暗示をかけるように、彼の掌を私の目蓋へと重ねて、耳元で優しく囁く。
詞は出ない。
彼の詞を聞き入れるだけの思考回路。
そして
最後に囁いた詞は、私にスイッチを入れた。
「…愛しているよ。だから、壊れてしまえ… 」